# 明日から届いた手紙

本デモのために制作したオリジナル小説。既存作品からの引用ではありません。人物・場所は架空です。

**語り手**  
閉店の札を裏返したあと、澪はカウンターに一通の手紙を見つけた。窓の外では、雨が港の灯をにじませていた。店には、古い紙と、祖母がいつも飲み忘れるお茶の匂いがした。この晩、扉のベルは一度も鳴っていない。封筒は乾いている。切手もない。表に書かれた自分の名前を見て、澪は手を止めた。

**澪**  
「これ、私の字だ」

**蓮**  
「自分に手紙？　僕なら、忘れないうちに電話するけど」

**語り手**  
蓮は脚立から降りた。ついさっき直した照明が、二人の間で静かに光っている。澪は封を開けた。日付は十月十八日。明日だった。

**澪**  
「九時に、古い灯台の明かりがつく。蓮と一緒に来て。今度こそ、一人で行かせないで」

**蓮**  
「今度こそ、って。あそこには何年も行ってないよ」

**語り手**  
澪は紙を明かりに透かした。どこかで見たような字ではない。急ぐと右上がりになる癖も、名前の最後につく小さな点も、まちがいなく自分のものだった。最後の言葉には、筆圧の強さまで残っていた。指先でなぞると、紙のへこみがわかった。奥の部屋で、茶碗を置く音がした。

**静江**  
「灯台の電気は、二十年前に切ってある」

**語り手**  
祖母の静江が、扉のところに立っていた。封筒には触れず、澪の顔だけを見た。

**澪**  
「じゃあ、誰かのいたずら？」

**静江**  
「そうなら、帰ってから怒ればいい」

**語り手**  
柱時計が、一度だけ鳴った。八時半。静江は引き出しから青い鍵を取り出し、カウンターに置いた。蓮は、それを見つめた。

**蓮**  
「どうして、その鍵を持ってるの？」

**静江**  
「返す相手が、まだ来なかったから」

**語り手**  
蓮は窓を見た。沖は暗かった。明日の朝には、この町を出るはずだった。工具箱はもう片づけてある。一週間、二人は列車や荷物の話をしていた。そのあとに残る空の椅子については、どちらも話し出せなかった。彼は鍵に手を伸ばしたが、澪が先に取った。

**澪**  
「一人では行かせない。手紙に書いてあるからじゃなくて。私が、そうしたいから」

**蓮**  
「わかった。一緒に行こう」

**語り手**  
澪がコートを着ると、静江はその襟を直した。子どものころと同じ手つきだった。一瞬、この手に守られたまま、夜が過ぎるのを待ちたくなった。それから澪は、鍵を握り直した。

**静江**  
「見えている道をお行き。近道はしないこと」

**語り手**  
扉を開けると、冷たい潮の匂いがした。澪は手紙を折り直そうとして、裏にもう一行あるのを見つけた。

**澪**  
「これを読んでいるなら、まだ明日は決まっていない」

**語り手**  
岬の先で、白い光がひとつ灯った。まだ九時ではなかった。澪は手紙をポケットにしまい、隣にいる蓮の足音を確かめながら、雨の中へ踏み出した。
